こんにちは、ハルです。
今回は『旧耐震マンションのフルリノベーション』について解説します。
新築価格が急騰している近年、少ない予算で新築同様の住まいが手に入る『築古フルリノベーション』が流行っています。
メリットが多い一方、特に「旧耐震マンション」をフルリノベーションする場合は、大きなリスクが伴うことを忘れてはいけません。
本記事では、
- 旧耐震マンションとは何か
- 旧耐震マンションはマジで危ない
- 危ないから「強制建替え」のリスクがある
- それでも旧耐震が良い人へのアドバイス
これらの内容について『ざっくり』と解説しています。
住宅購入の基礎知識として、ぜひ参考にされてください。。
目次
フルリノベーションのメリット
フルリノベーションとは、床や梁などの構造躯体を除き、全て新築同様に改装することを言います。(以下「フルリノベ」と言います。)
フルリノベのメリットは主に以下3つです。
- 購入物件の選択肢が広がる
- オーダーメイドで内装を仕上げることができる
- 築古マンションなら総額を大幅に抑えることができる
中古マンションは新築マンションと比べて、希望の立地や予算帯の物件が見つかりやすいです。
また、フルリノベは全くのスケルトンから作り直すため、好みの間取りに仕切ることができ、住宅設備や各種部材も予算の限り選択することができます。
まさに『オーダーメイドマンション』です。
さらに、築古マンションなら物件の購入価格を抑えることができます。
予算があまり無い方でも新築同様の住まいを手に入れることができることが、フルリノベの最も大きなメリットだと思います。
この様なメリットにより、フルリノベは住宅購入の一つの選択肢として、特に若い方を中心に人気が高まっています。
旧耐震マンションとは?
旧耐震マンションとは、1981年6月1日より前に建築に着手したマンションを指します。
中古マンションの購入を検討されている方なら、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
1981年6月1日の建築基準法改正によって耐震基準が見直され、この日を境に旧耐震・新耐震と区分けされるようになりました。
- 旧耐震基準:震度5程度の揺れに耐えられる建物
- 新耐震基準:震度6~7程度の揺れに耐えられる建物
注意点としては、建物の耐震強度は地盤や建物の造りによって異なることです。
旧耐震であるからといって、震度6~7の揺れに耐えられない建物とは断定できません。
あくまでも「最低限、震度5程度には耐えられる」と表現した方が正しいかもしれません。
旧耐震マンションであっても、耐震補強工事が実施され、耐震診断で十分な耐震強度が保証されている物件もあります。
そのため、むしろ安価に購入できる旧耐震マンションのリノベを薦めるネット記事やリノベ業者さんが多いのです。
ただし、耐震補強工事は莫大な費用がかかるため、上記のような「優秀」な旧耐震マンションはあまり多くありません。
とりあえずの対処療法として「簡単な補強工事で済ませている」このような旧耐震マンションは非常に多い印象です。
耐震補強工事は数億円単位となるため、住民合意が取りずらいのです。
いずれにせよ、旧耐震マンションは震災による倒壊・破損リスクは高いと言えます。
実際に、阪神淡路大震災の住宅倒壊のうち、98%が旧耐震基準の建物であったと報告されています。
6,434人が死亡した阪神・淡路大震災。死因の9割が住宅などの倒壊による圧死でした。震災後の調査によれば驚くべきことに、被災した木造家屋の98%は旧耐震基準で建てられていたことが明らかになりました。
一般社団法人 日本耐震診断協会
旧耐震マンションは建替えや敷地売却のリスクが高い
旧耐震マンションは「建物の耐震性」に注目が集まります。
しかし、フルリノベする場合の本当のリスクは「建替え」や「敷地売却」による『近い将来住めなくなるかもしれないリスク』だと考えています。
4/5の同意で建替えや敷地売却ができる
マンション建替えを行うには、ざっくり『住民の4/5の同意』が必要です。
一方、マンションの敷地を売却するためには、原則的に『住民全員の同意』が必要です。
ただし、『特定要除却認定』を受けたマンションは、全員同意ではなく『住民の4/5の同意』で敷地を売却することができると、法律で定められています。
- マンション建替え:住民の4/5の同意(もちろん全員合意でもOK)
- 敷地売却:原則は全員の同意、『特定要除却認定』なら住民の4/5の同意
旧耐震マンションは要除却認定される可能性が高い
旧耐震マンションは『要除却認定』を受ける可能性が高いと言えます。
要除却認定を簡単に言うと、行政から
この建物めっちゃ危ないので、建て替えるか取り壊してください!
このようなお墨付き(認定)をいただくことです。
そして、耐震補強工事を実施していない旧耐震マンションは、そのほとんどが要除却認定の要件を、悪い意味でクリアしてしまいます。
認定はマンション管理組合からの申請によるもので、行政が勝手に行うことはありません。
認定を受けることで「危ない建物」として周知され、マンションの資産性は著しく低下してしまいます。
しかし、要除却認定を受けた場合、
- 容積率の緩和
- 補助金の交付
このような経済的なメリットも受けることができるため、「本当に危ない」マンションほど、住民の理解も得られやすいのです。
この制度は2014年から始まったもので、実際に要除却認定を受けたマンションの建替えや敷地売却の事例は多くありません。
しかし、老朽化マンションの急激な増加は社会問題です。
その解決策として、国は要除却認定制度の促進を強く進めており、今後は旧耐震マンションの建替えや敷地売却はどんどん増えていくと思われます。
フルリノベ直後に建替えや売却なんてことも・・・
ご説明したように、建替えや敷地売却(特定要除却認定の場合)は、法律上、住民全員の同意が必要ありません。
反対した住人がいても、同意数がクリアされれば手続きは進んでしまいます。
要除却認定の要件の中でも、①耐震性不足②火災に対する安全性の不足③外壁等の剥落により周辺に危害が生ずるおそれ、これらに該当する場合は「特定要除却認定」となり、敷地売却制度を利用することができます。
つまり、築古マンションを購入して数千万円の費用をかけてフルリノベをしたのに、その直後に建替えや敷地売却が決定する、このような事態も考えられるのです。
行政手続きには時間がかかるため”入居の1ヶ月後に退去”みたいなことはありません。
もちろん、建替えた場合は従前資産額に応じた新築マンションの床が返ってきますし、敷地売却も同様に、従前資産額に応じた現金が返ってきます。
しかし、従前資産額はあくまで「従前の土地代」です。
どれほど費用をかけて素敵なフルリノベをしたとしても、建物代は一切評価されません。
したがって、キラキラの部屋を所有する自分も、ボロボロの部屋を所有する隣人も、基本的に同じ条件で部屋を手放すことになるのです。
2回目の大規模修繕が終わったタイミングで建替えの検討が始まる
私の仕事を通じて実感するのは、2回目の大規模修繕が終わった頃から建替えの検討を始めるマンション(管理組合)が多いことです。
大規模修繕工事は、15年〜20年に一度実施されることが一般的です。
そして、2回目の大規模修繕工事が終わった頃は、築年数は30年〜40年になります。
3回目の大規模修繕は、耐用年数を超える設備が多くなるため、過去2回と比べて修繕費用と高額となるケースが非常に多いです。
そのため、「多額の費用をかけるくらいなら、もはや建替えしようじゃないか」と、住民から声が上がるマンションが多くなるのです。
それでも旧耐震マンションが良いなら
様々な理由により、結果的に旧耐震マンションを検討することもあると思います。
その様な場合、最低限は下記項目の確認を事前に行いましょう。
- 耐震診断が実施されているか
- 外壁の剥離などの問題はないか
- 給排水管のトラブルはないか
耐震診断が実施されているか
耐震診断が実施されていれば、新耐震基準に適合しているかどうかの判断ができます。
耐震診断の有無は、仲介業者を通じてマンション管理会社から聞くことができます。
この耐震診断で新耐震の基準を下回っている場合は、やはり購入はオススメできません。
外壁の剥離などの問題はないか
外壁の剥離は、要除却認定の要件の一つです。
内見の際は建物の内側だけでなく、建物の周囲をしっかり確認しましょう。
また、これまで剥離した実績があるか、修繕したのはいつかなど、管理会社に確認をすることも重要です。
外壁剥離と次に解説する給排水管の問題による要除却認定は、敷地売却制度の要件ではなく、マンション建替え制度にのみ適用される要件です。
給排水管のトラブルはないか
築古マンションで最も多いトラブルが給排水管の破損や汚損です。
築古であるほど、給排水管に何らかのトラブルが起きている可能性は高く、この修理のために毎年莫大な費用をかけているマンションも少なくありません。
また、給排水管の腐食等による衛生問題も、要除却認定の要件の一つとなります。
昔のマンションは「コンクリート埋め込み配管」である可能性もあり、そもそも修理が不可能な場合もあります。
給排水管は見落としがちな項目であるため、構造も含めて管理会社に確認しておきましょう。
おわりに:マンションにも必ず寿命が来る
フルリノベは住宅購入の手段としてとても有益だと思います。
しかし、マンションにも寿命があり、古いマンションほどコンクリートの寿命自体も短いと考えられています。
旧耐震マンションのリノベを検討する際は、耐震性に加えて『近い将来住めなくなるかもしれないリスク』にも最大限の注意を払わなければなりません。
以上、本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。